劇評ってなんなん?

お芝居関連の仲間が増えてから、なんのかんのとお芝居を見ることが増えてきた。
一年も見てきてると、さすがに「もうみなくていいや」な劇団と「気になるアンチクショウ」な
劇団がわかってくる。

どこの劇団も芝居好きがやってるから、一生懸命ぶりに差はないけれど、劇団、役者の持ってる
魅力には大差があって、見るほどに「ヘコまされる」劇団にはどーにも怒りがこみあげてきて、
なおかつ「改善の様子」もないので、なおさら腹がたってきて、「見よう!」という意欲と
同じくらい「もーぜったいイカネーもんね!」と決め込むことにした。せいぜい二度もみれば、
その劇団のもってるポテンシャルは創造がつく。ましてやこっちは幸田などという都会まで
一時間電車に乗っていくってなハンデ付きな訳で、金払って「ムカつかされた」ら、さすがに
堪忍袋の緒もきれよーってなもんである。

で、ついこの間、お知り合いの役者さんと「劇作家協会東海支部」の集まりってものをみにゆく
機会にめぐまれた。東海地方で演劇の戯曲作家さんたちの集う催しらしいというので、行ってみたら
創立してまったく間がないようで、けっこう閑散としたムードでした。はじめ「こんな名もない
漫画家なんてのが『劇作家』とかのたまってる人たちの中に入って行ったら食われてしまうのでは
ないか?」とか焦ってもいたのだが、てんでそんなものではないことが分かってホッとした。

東海地方の目立った劇団の寸劇や、舞台挨拶がちょこっとあったけれど、そこは大したものじゃ
ないので、ここでは割愛します。えー、これらの催しの最期にシンポジウムと称して、別役実先生を
はじめとする、日本各地の劇作家支部長が集ったトークショーがありました。
そこで、東京以外で、つまり地方でお芝居をする劇団員の「食えない」環境を憂れいての発言が
続きました。そのしがない役者像とは以下のものです。
「30歳を越えて、なおかつ結婚もせずに、実家に住まい、自分と同じくフリーターの彼女も役者で」
おおお!そんなのヤツ山のように周りにいるぜ!とも思いましたが、役者だけでなく、漫画家でも
小説家でもなにかめざしてる連中ってのはそうした状況に突入してるぜ・・と思ってしまえる
あたりがちょっとトホホ。

で、劇団サイドもそんな状況から脱すべく、いろんな挑戦を試みていますが、いかんせん、地方では
絶対的に観劇人口が少ない、すなわち!「芝居なんかみねーよ」な人が圧倒的に多いってことなので、
どうしたって劇団の台所事情は苦しいままらしい。
ま、そーだろーね、とも思いつつ、じゃあ東京でならそれができるかっていうと、少なくとも地方
よりはそれができる。観客層があるから、地方で食えないことでも少しばかりのインフラはある。
それに「闇からあらわれ、闇に去ってゆく」というようなことが、あのデカい町でならできると
いうのだ。フムム、なるほど。地方では狭いがゆえに「どこそこの誰子ちゃんが、どこどこで、
こーんなことしてたのよ!」ってな話しが広まり、表現の自由度が極端に制限される。あるある。
これって田舎の農家に嫁いだ、都会の女性が感じる閉息感にまったく同じものであるでしょう。

で、とあるシンポジウム参加者の発言に「劇評の成熟」ってことに触れたコメントが出た。
”げきひょう”?よく聞くが、イマイチそれがなんの役にたつの?って思ってただけに、
やや前のめリになって話を聞いてた。「地方では劇評がないんですよね。新聞でも芝居に関する
評価が極端に少ない。メディアからでてる劇評の本にしたって、東京、まぁ、よくても近畿くらい
までのものに絞られる」ふむふむ、そうでしょうなぁ、とうなずきつつ、
「で、たとえ劇評が良くっても、それが次の公演にはまったく役にたたないんですよ
といわれ、ハッとした。観客の動員数は別段変わらないというのだ。

どこそこの劇団がやってる芝居ってものへ興味を持つ時に、ぴあや新聞、テレビでのコメンタリは
あてにしてると思う。もちろん仲間の言葉や誘いも検討材料だとは思う。そうしたコメンタリが
優れていても、次回の公演に対して、力を発揮してくれない、というのだ。
おお、悲劇。つまり、いい芝居をうとうと、下手ックソな芝居を打とうと、劇団に返ってくるモノが
ない・・・これは表現者としては絶望ではないか!他人ごとながら、なんだか打ちひしがれた。
名古屋だろうが、そのほかのどこであろうが、いいモノを作る人には相応の評価が与えられるべき
だと思う。そうした評価ができない地域ってのは、悲しい地域だと思う。

地方でけっこう著明な劇団主催者がこれをいってたのだから、ううむ、ウムーとうなった。
齢40、50を越えた劇団関係者の嘆きは日本の土壌への悲観なのだろうか。

私もコソコソとながらマンガを描く身である。お芝居よりは少しばかりインフラの整ったマンガ業界に
いるってだけのことで、表現者として役者さんより上とも下ともいえない、同業者のような痛みすら
感じる。自分が自信を持って作ったものが、作品の善し悪しにまったく触れられずに、評価を
されないなんてことになったら、なんて悲惨なんだ・・・と考えるのも恐い。
「評価しない」、ならまだいい。「評価ができない」「評価がわからない」というのは、なんというか、
人として悲しい・・・。テレビやマンガなんかより、アグレッシブでコアなセンスをぶつけてくる
お芝居があなたのまわりの地方都市で炸裂しています。どーか、ひとつ、あなたのまわりの中で
ひとつくらいは大好きになれるお芝居を見つけてくれませんか?これはながやの小さなお願いです。

「劇評ってなんなん?」・・・なんなんでしょう?決定打にはならないけれど、検討材料になるもの。
ああ、ああ、頑張れ劇作家協会さま。応援したくなりました。お芝居ってハングリーだ。スゲー!

 

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