映画を見るひとたち

はじめに申します。「スパイキッズ」、面白い映画でした。
常々、ダメなアホ映画はねーかー?と徘徊するような心持ちで
映画宣伝を追っておるワタクシですが、うん、これはナットクという
久々の作品でした。満足。

えー、この映画見てて、映画館にいることを忘れて、肩をゆすって
笑ってました。愉快だったからです。私の他にも観客がいまして、
おおむねカップルとか女の子友人らしい構成で、あんまり
「映画好き」な人はいないようでした。シネコン形式のところで
みたので、「ハリーポッター」君が人気のようでしたがね。

えー、このありふれた、チープな出来の、バンデラス監督作は
観客の多くをあまり魅了してない様子で、ラストクレジットに入ると
若者カップルはそそくさと暗い中を出口にゾロゾロ出ていったのです。

「あれ?」って思いました。この挙動は、わたしには「つまらない映画」
の時の『抗議の行動』なのです。ま、一般のみなさまにそれがどういう
意味を示すのか知りませんが、ホントにソソクサと出て行きました。
「思い入れ」はないようでした。

私はもの作りで食えてないにしても、もの作りに対して熱意の湧いてくる、
情熱のようなものが作品にあれば、怒涛の喜びが見いだせます。
ですが、フツーに暮らしてて、別段物語ることに重きなんてない人
には、「ありふれたツマンネー作品」だったのでは?と推察されるのです。

それでも、邦画より若者を魅了したことが印象的でした。
観客は「普段、映画なんてみねーよ」って感じの若者でした。
ロビーでポップコーンたべながら、ジンジャーエールを飲んでた
カップルは、周りの連中に聞かせるような声で、最近見てきた映画の
数々について、『カップルぶり』を披露する舞台のように、高らかに
『楽し気』に語ってました(そしてロビーにエールをこぼしてた)。
そして同じシアターに入りました。上映前の予告でも「これ、みにいく?」
「あ、あの人、でてるんだぁ」と小声でトークしてました。

が、そいつらの姿は、明るくなったシアター内にはありませんでした。
「ラスト・クレジット前に出てった組」の一員におさまったのでしょう。
あんまり映画もみてなかったんじゃねえのかな?って思います。
でもきっと、話題の接ぎ穂にいい「つかみ」ができたでしょう。

映画好きの人、っていうのはかっこうやしぐさが表にでてる。ひとめで
直感する。だいたいひとりで映画館にきてるし、めつきが、もう、
「ふてくされてます!」って感じや「斜に構えてます!」って顔つきに
なっているんですもの(はっ!俺のことじゃん!)。
ハッピーな顔つきでウハウハになって帰る人をあまりお目にかかれない
モンなのはなんでじゃろーねー、とか思うのです。

そんな人が「スパイキッズ」、私のみた回にはいなかったのです。
で、「映画、たまにみるよ。彼女と」「月に2度くらいは見るよ、彼と」
って感じの客はもりもりと。

それでいいと思うのよ。
映画って、映画好きにホメられるようじゃ、もう、難解なのよ。きっと。
アタマわるくたって楽しい映画ってのがベストチョイスなのよ。きっと。
映画について、語りたいなんて思わないでいいのよ。当然なのよ。
つーか、映画って「イベント」でもあるのだから、「映画に行った」が
ステータスそのものであって、ありがたみのようなもんなのかもしんない。

だから、映画制作側が「もっとしっかりした作品を」とか頑張るのは
オオマチガイなのね。内容なんてのは「ついでに」すごけりゃいいのだ。
「誰かといっしょに見に行く」までが真なる理由でいいのね。
で、ツマンなかったら「つまんなかったねー」って話せるし、
面白かったら「よかったねー」だし、ムズカシかったら「わかんないねー」
で楽しいのであるな。たぶん。多分ってのは、わたしはそういうふうに
映画が見られない。もっと不純な動機で斜めの目線で見ているから。

だけどさ、「映画好きでもない」人を、映画に行かせるって点で
いい映画だと思う。評価される作品は、芝居でも映画でもマンガでも
「常連しか接してこないような世界」へ「いってみようかぁ?」って
期待させる作品なのだ。

宮崎ジブリアニメに子供も大人も映画館へ安心していくじゃないですか。
そして、期待した通りの安心をしょって、ホクホクと帰られる。この
安心ったら。家族でもカップルでもOK。でも彼等彼女らは、普段
滅多に映画館に来ない。そんな人たちが、「たまの映画」に選んで
アニメをみに来てくれる。かつて「まんが映画」とかいって
「そんなのみてたら馬鹿になっちゃうよ」とかいわれてたジャンルを
引き上げてくれた優秀なクリエータが日本にいてくれて良かった。

この『「スパイキッズ」って作品の愉快さを熱弁する俺なんか、相手に
しねーのよ、ってな観客』が、わたしには嬉しかった。ソソクサと
帰る正直さもたんぱくさもよかった。映画はこうした正直な行動を
とれる人によって興行されているのだ。ホントは「あんまり見てないけど」
っていうスタンスで来られる場、の認識こそ、映画の力のひとつって
気がする。ここんところを映画を作る人は「作品そのもの」と同じ
ウェイトで思考していただきたいものだ。ホイチョイプロってそんな
スタンスかしら?(あまり詳しくないもので)。

私は、「スパイキッズ」、大好きでした。
馬鹿馬鹿しいものと、「昔っからしってらぁ」ってものがわんさか
あったのです。なにより、こんな馬鹿映画にキチンと出演して
演技してる子供の笑顔が素敵だったのです。ポーズもどことなく、
本人達ノリノリでさ。キマってるんだよ。ウレシソーなのよ。
ああ、俺、子供ん時、こんなのやれたら、オモシレー大人に
なれるなぁってすんなり思ったのよ。
出演してる大人のノリもSクラスのアホテンションだったのも
好き!!うれしい作品でした。ありふれた作品のようでいて、
うふふ、そうでもないのよ、滅多にない、いい作品なのよ。

 

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