作成日: 11/07/22  
修正日: 11/08/03  

続・カメラマンを育てている

なにかを手に入れたのに、なにかがわからないまま!



読者諸君は以前、エッセイで書いた「今、ひとり、カメラマンを育ててる」をご記憶であろうか?
え?もう忘れちゃった。そーかー。じゃ、読み直してよ。

そもそもなんでカメラをその子が好んで買ってるのかが、分からない。
だいたい3月に買ったデジカメだって、パソコンで見てもいない。つまりカメラの
液晶部分だでの画像で「綺麗」とか「駄目だー」と言ってるくらいです。ちなみにデジカメは
1200万画素であり、けっして画質的に劣るものではないわけです。
画素数でも、引き延ばし画像にしてるでもない。なのに今回会ってみると
「キヤノンのKissX50って綺麗ですよね」と言ってる?!?!?!?!?!

ナヌ?

そ、それって液晶での見栄えだけの話なんじゃ・・・と思いつつ、思いつつも
「うん、綺麗だよねえ・・・・って、前のデジカメ(眼レフ)買って4ヶ月だよねえ」
「そうなんですよぉ」
ふおおおお、どうもどうやら本気らしい。新機種狙ってるらしい。

とはいえ、今回は水族館のイルカ撮影に挑み、手持ちの18-55mmだけじゃ、いかに非力かを
覚えていただき、あわよくば望遠レンズってのの価値をお伝えしようと画策していたので、
それを大幅に上回る要求が出てくるとは思わなかった。

事実、イルカのドルフィンキックで海水を真正面からドバッを浴びたにもかかわらず、
「これくらいで壊れるようじゃ、それだけのもんですよね!」とか息巻く様子で、
一方EOS-5DにLレンズの35-350という主力レンズに濡れ鼠の小生は気が気じゃない訳です。
とはいえ、眼レフをこんなにぞんざいに扱える、つまりは道具扱いできるのはなかなかできないもので
実際撮った写真はそのこの方が遥かに的確で、シャッタースピードもバッチリだった。

なのに、なのに新カメラに心が取られてるのです。
なんなんだろう。引き延ばした画像を見た訳でなし、スペックに凝りたい訳でなし、
とにかく「直感」で突っ走ってる。
3ヶ月前にはじめて眼レフデジカメを買い、その二週間前に「ナンチャッテ眼レフ(実際はコンデジ)」、
なのに、なのに昨日、新機種が見たいと言ってるのでした。
なんなん?
なんなんでしょうこれは。

とはいえ、カメラに惹かれる気持ちは分かるのです。
新機種の、あのえもいわれぬ魅惑に打ち勝つのはすごく難しいのです。
でもさ、1年の7ヶ月のうちにカメラをもう二台買ってるんだよ。
それまでにも二台コンデジ持ってるんだよ。もう4台あるんだよ。4台だよ。十分じゃん。十分でしょう?

それでいて当人は「スナップ気分で撮りたいんです」といってるんですが、映りに要求するスペックは
スナップどころのそれじゃなく、ぶれ防止にLレンズ級の明るさ、ツァイスばりのボケ味、
伸縮自在なズーム、ととどまるところを知りません。とどまりません。怪我を承知で突っ込んできます。
あぶなーい!

気づくと、この県で有名な中古扱い店で、レンズをみていました。
しかし前回買ったペンタックスの望遠レンズなんか見ていません。
キヤノンです。
キヤノン一色に焦点を当てていました。
どうやら会ってないうちに、いろいろリサーチしていたようです。試し撮りできるEOSのX5やX50,
60D、7Dをモリモリ試しては、裏の液晶部分で確認しながら、機能を試しています。
「いやー、綺麗」
い、いや、それは液晶が綺麗なのであって・・・

「黒は嫌なんです。なんだか『やってる人』見たいに見えるので」(カメラボディの話)
??はう?
なんですか、それは。そういう物差しですか。
「スナップ、でいいんです。あまちゅあー、みたいな」
でも要求してる事全然違うじゃん。
当人はワインレッドのEOS-X50を所望していたのですが、(理由:「かわいーですよねー」)
よくよく調べると、今の手持ちのペンタックスと画素数は同じであり、買い替えるメリットは、
せいぜいレンズリングの口径がでかいくらいよと、伝えると、ふぬう、と唸って、
KissX5をパシャパシャ。
「うーーーーーーーーーー」と唸って
「私これ好きです。この子好きです!!」
そうですか、そうですか、そのこは1800万画素です。DIGIC4ですので回路側の仕事も盤石です。
「でも重いのは嫌です!」の一言で60D、7Dの線は消える。

「ムービーは要るの?」
「いりません!」
「動かせる液晶部分は?」
「いりません」
「じゃあKissのX4で機能は十分よ」
って説明までしたら、今度は視点がレンズに。

「今持ってるペンタックスが18-55のレンズだから、レンズキットで買えば、同じズーム比の
ものがついてるのがあるよ」
「え、レンズってついてないんですか?」
「ついてません・・・」
「えーーーーーーー」

えーーーーーー、じゃありません。ついてないのです。
そこでレンズキット(18-55mm)、Wレンズキット(18-55mm、55-250mm)
、スナップキット(50mm単焦点と18-55mm)の意味を紹介する。

「このキットで中古屋にありませんかねえ」
と中古屋さんに戻る。あるにはあるけど、X5のWレンズキットにしては高価。

頭を冷やしに喫茶店で討議。
「なんだか買いそうな話になってる気がするんだけど、眼レフあるじゃん」
「だって綺麗ですよ」
「あれ、液晶が綺麗なんだよ」
「写真も綺麗になるような気がします」
しますか、しますですか、そーかー。
「将来的には私に要ると思いますか?」というので
どこまでの事をしたいの?例えば今日撮ったイルカみたいなのはボケ防止がついてた方がいいし、
望遠ができなくちゃ遠くのものも撮れない。そうはいっても風景なんかには広角も要るよ。
でも君はボケ味が好きだというから、なら単焦点レンズもいるんだよ、とこんこんと説明
してるのに、もうパンフレットに心を捕られて凝視してる。あのー、説明は聞いてますかー。

「あなたが普段言ってることを総括すると、Wレンズキットに単焦点が要る」
「ですよねー」
「しかし、だ」
「?」
「君は前の眼レフを買って、半年経ってない!」
「手放したくないんですよねー」
ええええええ、手放す心づもりが生まれてるじゃん!おおおおお、ああああああ。

だって家に4台あるんですよ、カメラ、デジカメが。
「じゃあもう一回(カメラを)触りにいこう。」と某カメラ展示場に行き、X4をパシャリとやると
「ああああああああああ、もう、私、この子買います」
「!!!」
「(私は)買います?」なんで聞くねん!
「????」
「買うーーーーーーーーー」

話の流れから、Wレンズキット(両方IS付き)を買う事に。
しかしそれにはポイントがつかないという。店員さんと話をしてポイントを無理矢理つけてもらう。
そのポイントで、単焦点レンズも購入。つまり、一気にキヤノンX4本体と、レンズ3本を
購入することに。

ここにまで話がくるまでに半日を費やしており、店員さんも2度も3度も出入りしては
模擬マシンをパシャパシャ言わせてる連中に目を付けててきれたのか、レンズバックを
つけてくれた。

ショックだったのは私の方だった。
前の眼レフを使いこなすませに、使い尽くす前に、なんでこの子は眼レフが買えるんだろう!
「(L版に)カメラ屋さんで焼いてもらったことはありますよぉ」というくらいにしか
画素数を気にしていないのに。
なんだろこの直感勝負は。

「私はここで買わないと後悔しますかねえ?」
「前回買った時はどう?後悔した?」
「全然しませんでした」

私は前回の眼レフ購入をさせた時には、弟に怒られた。「なんでペンタックスなの」と。
ペンタックスは悪くありません。機能も十分です。映りも素晴らしいです。
たしかに眼レフ買うならキヤノンかニコンだよねえとは話してた。そういう刷り込みはしてきた。
でもさ、だってさ、7ヶ月のうちに3台カメラ買ってるんだよ。
「カメラは趣味です」と言うんだけど、趣味ったって、こういう買い方するアマチュアなんて見た事ない。

で、家まで待ちきれず、近くのロータリーで座り込んで早速試写。
ピ、パシャ!「うわーーーーーーーーーーーーーー、きれーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

そう。
カメラを教えたり、一緒に買ったりする時に、一番幸せを感じる瞬間。
一分の隙もなく、体の奥の奥の方まで「嬉しい!!」が満ち満ちていく瞬間。
そこを味わったばかりに、もう「それ以前」「それ以後」はもう人間がごっそり変わってしまう
マジックアワーに居合わせた。
その子の発した言葉のほうじゃなく、こころの奥底に巣食った「カメラ魂」が悲鳴に近い喜びを
あげてるのが分かったのが嬉しかった。

もうひとつは、「詳しい事がサッパリわからないまま、いいカメラを手に入れて、手に余る機種に
酔いしれる瞬間」に出くわしてるのがびっくりした。
カメラもここまで教えてきてると、シャッタースピードとか露出とかに凝りだしたり、吟味したり
するはずなのに、そうしたスペック面の欲はほとんど表に出ず。「撮りたいように撮れれば」という
アマチュアイズムの最右翼にこの子はいる。そうした直感の写真というのは、えてして生半可な
カメラかぶれした人より、新鮮な息吹をシャッターチャンスに込める場合がある。
この子にはその素養がある。なにより、無作為に突然遠くの町にいったりする。
そこに、「そういうカメラがあるのなら」、この子は、いい写真をきっと、きっと撮る。

そう思ってたので、今日はひとつご褒美をあげる事にした。
いつかこの子がキヤノンを買ったら、あげるつもりでいたLレンズをひとつあげた。
「重いのは嫌なんです」と言ってたのに、その映りを試したとたん、重さの話はしなくなった。

ああ、よかった、やっとLレンズの話ができるとこまできたんだね。
ここからはひたすらレンズ沼という底なし沼と、新機種のスペックアップの繰り返しです。
画素数で言えば、お弟子さんの方が上です。ましてはこの日でそろえた4本のレンズは
どれも盤石なもの。写真では負けちゃうかも。

でもいいのです。「詳しい事が分からないまま」ここまで突入してくる子と過ごせる写真ライフが
凄まじく面白いのです。
んで、「多分ここにはとどまらない」次の要求が、そこはかとなく予感されてきていて、もうすでに
なんだか浮き浮きしているのです。

もうカメラ展示場にいても、コンデジコーナーに見向きもしてなかったもん。
「ジオラマ風」とか「魚眼風」に喜んでたのは、まだ半年前なのに。嗚呼。

私は、「詳しく分からないまま」飛び込む人間が大好きです。
詳しく分かってる人々の中で、恥じ入ったり、物怖じせずに、ドンと突っ立ってる人が大好きです。
「わかりません!!!」といってはばからない人が大好きです。この子はそれができます。
本当に分からないままなのです。でもカメラって、できるだけ最初にいいもの持った方が、
伸びるんだよね。この子はかなり早いペースで階段を駆け上がった。次にどう憧れていくかを
全階段、ちゃんと踏んできてるのも見てきた。だからこの子の無茶ぶりのような要求は
「なんとかかなえてあげたい」気持ちになれた。すべてこの子の力量なんだ。

だから買ったあとで褒めたのです。
「その買い方でいいからね。」って。

さー今度はなにを言われるかな。楽しみだなー