作成日: 13/12/22  
修正日: 13/12/22  

EOS-5Dの魔力

カメラ入門


先週のことですが、カメラが買いたいという御仁がいらっしゃいまして、よりにもよって私に相談してくれたので
2週間くらいかけて、要望されてる機種の選定と、相場情報、レンズの試着できる店舗などを絞り込んで
おりました。いざお店巡りをしておりまして、何度も何度もレンズを着けたり外したり、ファインダーをのぞいて
数ショット撮ります。

カメラの相場や「どれがいいの?」って人には、とにかくたくさん触れる機会を設けて、自分と「相性」の合う
ものへ近づけてあげるのがセオリーですし、マナーなんだと思うのです。
それでも紹介者の「意向」や「褒め言葉」や「言うに言いにくい推奨」が言葉の端々に入っちゃってるんでしょうね。

まず「キヤノン」に誘導しておりました(結果的に)。ニコンもソニーも御進めしたんですよ。各メーカーも
説明しましたよ。今から買おうとしてるものは長くもち続けるつもりですか?と問えば「はい」とおっしゃるので、
「じゃあ、レンズとかは資産になるものがいいよね。例え趣向が将来にわたって変化したって、カメラ本体を
買い替えればレンズってものは資産になりますものね・・・」なんて言い草が、すでにキヤノン教団の信徒発言
なのだなあ、とあとになって思うのです。

ましてやその時その人は某メーカーのミラーレスをレンズキット(2本)所有しており、カメラはすでにあるわけです。
とはいえ、昨今何度かカメラに触れる機会があり、最初は「借りればいいです」の意趣だった手合いが、
「常に持っていられる」ことを望むようになり、じゃあ・・・とカメラとレンズをいくつかのぞいていただいたのです。

APS-Cとフルサイズの違いもピンときていらっしゃらなかったようなので、「綺麗に撮れるやつ」と一番良く聞く
フレーズから、とりあえず脱してもらおと、カメラ屋売り場で実際撮り比べしてもらいました。
んで「どっちが好き?」と聞けばフルサイズ、となり、じゃあ、とEOS-5Dmark2やらEOS-6D、ソニーの
アルファなどを数点お勧めしましたよ。

「カメラを電器量販店で買う」ことと「新しいほど綺麗なはず」ということが、カメラ入門の方々に
見受けられる傾向と思います。そしてカメラをずっと持ってる人は、このことを忘れがちなものです。
だって撮るだけならiphoneとかでいいじゃん、と軽率に思い込みがちなようですが、そうした
「ただ撮れる」だけの機種の写真で、10年後に「見返す」写真になってるものはほとんど亡失している
ことでしょう。

あの時、あの瞬間を「撮り残せる」のは、結局のところ、ちゃんとしたカメラで、ちゃんと撮った写真だけ
なんですよ、とそうした人に伝播するのは、それなりに時間を要します。だって撮れますもん、いろんな
ケータイ付属機能程度でもね。
でもそれと「残ってくれる写真」は別物なんですよね。残すことが大事とは思いませんけど、「撮りっぱなし」で
「撮っただけ」で残らない写真、ってなんなんでしょうね。本人もカメラも写真もがっかりするだけでしょう。

カメラを買う人は「なんだっていい」訳じゃないのです。私は少なくとも「安い買い物」にはあまりさせません。
カメラは値段相応に、「腕が上がった気がする」カメラが存在します。=値段が高いほどいいもの、ではないので
「どのカメラは省くべきか」は話します。

概ね売り場で大っぴらに売りさばこうとしてるカメラは「痛くも痒くもない、何でもできるカメラ」が
多い気がします。その人はEOS-6DかEOS-5Dmark2まで絞り込みました。どちらも10万以上する
相場(しかもレンズなし)のものです。どきどきしてました。どっちも綺麗に撮れるカメラです。
でも正直なところ、そのどっちも「しっくり」きてなかった感じを受けたのです。

何度もファインダーをのぞいてるうちに「綺麗に撮れる」という表現から「ボケ味」に味わいを
覚えるようになってきて「こういうの撮りたいです!」となってきまして、ほう、それはですね・・と
明るいレンズのことを話しはじめました。(単焦点レンズの話はもう少しあとにしますよ)
そうこうしてる間に「Lレンズはいいらしい」という信仰(?)にたどり着き、そうですか、欲しいですか、
じゃあその店を紹介しましょう、と進むわけです。

で、店に入るたびに「モノクロの質感」を試したり、店員さんに相場や機種の説明をいくつか
受けてきて、のぞいてみたいカメラの幅が少し広がるわけです。「他になにがあるの?」と
聞けば聞くほど、興味が出てくるわけです。だってそこで買う買い物は安くは済まないし、長く使いたいし、
買う時に知ってなかったことで損した気持ちにはなりたくないですものね。

そうした「真剣勝負の場」に立ち会えることをワタクシは大変誇りに思っておりまして、知ってる限りの
情報を投入しておりました。そして選んだカメラが「初代の方のEOS-5D」・・・・・ええええええええ?
なんで?この1800万画素あたりの画素数が相場の時勢に、1280万画素のソレを?
「綺麗に撮りたい」って言ってたことを思えばEOS-6D辺りが好みとばかりに思ってたのです。
当初はそれを褒めていました。でも撮り比べてるうちに「黄色みがかった画質のほっとする」と
言いはじめました。

お、と思いました。

画素の多さから思えば、EOS-6DもEOS5Dmark2も断然EOS-5Dより数段格が上です。
白身も抜けがいいでしょう。
カメラが面白いのはここで、「その人との相性」をたぐる作業なのです。
「綺麗に撮りたい」というその人の言葉には、実は「自分との相性のいい綺麗さ」と言う言葉が
内包されていて、希望するカメラを話してる談ではそうした「言葉にしてない部分の希望」が
たいてい埋もれています。

だから一緒にカメラを探しててもそのひとが「得心のいく」カメラこそを「いいカメラ」と称するのであり、
カメラを紹介して、とご指名をあずかったワタクシは「その人が言ってない好み」を特定する
紹介をしなくちゃ、なのです。

ですからその答えは「その人が欲しいと言い出せる」ものにまで足しげくカメラ屋を通い廻るだけなのです。
そーれが、よりによってEOS-5D。・・・・・・・あああ、これで3人目です、EOS-5D買わせてしまうのは。

実際EOS-5Dは古いのです。ビデオ機能もないし、ダスト除去もなしです。
でもたしかに、このときの映像エンジンでしか再現してくれない味わいがピカイチなのです。
新しくて、綺麗なだけのカメラに「写らない」写真が、このカメラでしか写らない写り方で
写るのです。

そして嬉しかったんです。「綺麗」ってものが、イマドキの「なにごともきちんと全部写る」
カメラではなく、「味わいが好きなのでこのカメラで」とその人が決められたことが。

事実、EOS-5Dを購入されました。レジでカメラを買う人が本当に「手に汗」握るんですよね。
それを見るたびに思うんです。ああ、そのいろんな気持ちのないまぜになった焦燥感に応えるところまでは
教えるからね、って。

購入一週間後までに、その人は撮影の機会に恵まれました。撮影当日まで「綺麗に撮れません!」とか
「画面が暗いです、どうしたらいいですか?」とか「ぼかすには近づけばいいんですよね?」など
質問の意図がよくわかんないものまで含めていろいろありました。
が、実際撮り終わってみると、カメラってすごいですね!と大変お喜びの様子。すごいすごいの連発でした。

いいカメラは乗りこなすまでに時間がかかりますし、撮り手がカメラの性能の把握をしてないうちは
「自分の撮りたいふうにならない」ということがストレスになりがちです。ましてやいじれる機能が
多彩に、多岐にわたってる高機能カメラはのっけに上手くは撮らせてくれません。ですから、
「カメラの撮らせてくれる写真を探って」というアドバイスもしました。

カメラって撮り手の要望だけでは、だめで、カメラそのものにできることと、撮り手との「折衝」だと思うんです。
話し合いです。育み合いです。その結果が写真に写るんです。自分が好きなもの、を機械が察して撮るのでは
なく、あなたの好きなものは、カメラなりに解釈させてあげて、いいように撮らせてあげれば、カメラは
あなたの要望以上のものを返すことがある、と。そして「いいカメラ」というのは、その返事が
「自分が好きだと言い張ってた以上にいい返事」で返してくれるカメラのことをさします。

EOS-5Dはその点、大変優秀なカメラだと思います。手放せないです。すっごくいいですもん。

その人には買う前までに何度も何度もEOS-5Dのファインダーものぞかせてましたし、レンズも
交換しまくっていたのに、いざ「買う」となるまで「その良さ」はやっぱりどこかヨソのナニカ、って
感じだったのでしょう。いざ本気で「写真の質感を手に入れる」段になって、見比べて、ああっと
思ってくれたのでしょう。

ああ、もうそれだけで幸せです。いい気分です。そしてまたEOS-5Dを買わせてしまったのです。
うふふ。いいよね、EOS-5D。